筋の打撲は比較的頻度の高い外傷で、特に、大腿部(ふともも)の打撲が多く、スポーツ時などに大腿部を強打した時に、
筋肉が大腿骨との間に挟まれることで圧迫されます(ふくらはぎ等でも起こります)。
打撲によって筋・筋膜や周囲の血管が損傷して 出血を起こし、腫れます(深部で出血を起こした場合には、表面的には腫れがはっきりしないこともあります)。
通称「ももかん」や「チャーリーホース(ケガを理由に引退した競走馬が、メジャーリーグのグラウンド整備時に足を引きずって歩いていた様子が、死球などの打撲時に足を引きずって歩いている野球選手の姿に似ていることからそう呼ばれるようになった、との説があります)」と呼ばれます。
大腿部打撲は様々なスポーツで起こりますが、接触が多いバスケットボール、サッカー、ラグビーなどで多く見られます。
この筋の打撲は、軽度の筋損傷であれば、練習を休むことはありません。
しかし、損傷程度が大きいと、練習復帰まで長期間を必要とする場合があり、初期対応に注意が必要です。
大腿前面にある大腿四頭筋の中でも、中央の深い ところにある中間広筋に多く発生すると言われています。
多く見られることからも軽視されやすい外傷ですが、適切に治療されず、打撲を繰り返すと「骨化性筋炎(激しい打撲や反復性の打撃により生じた出血が血腫となり、それが骨化することで痛みを引き起こす:下記補足参照)」を引き起こしてしまう恐れがありますので注意が必要です。
打撲の時の応急処置PRICE
打撲の時も、PRICEの応急処置を行うことが原則。
これは、保護・安静・氷冷・圧迫・高挙を行うことで、その大きな目的の一つは損傷部位からの出血を抑えることにあります。
筋の打撲によって生じる出血を最小限に抑えることがポイント
筋の打撲によって血管が損傷し出血します。
血液は血管外へ流れ出て、正常な組織に触れると、その正常な組織は自分のどこかにキズがついたと判断して組織内の細胞増殖が生じます。
つまり多量な出血により細胞の増殖が起こり、筋が固くなったり,筋の癒着現象を生じたりします。
これにより筋が伸びにくくなり(拘縮)、結果的に筋の機能が低下し、関節の動きが悪くなったりします。
筋の打撲後に早期復帰できないのは、このように出血による影響が大きいので、これを予防するには、できるだけ出血量を抑えることが大事です。
出血を抑えるためには
効率よく出血を抑えるためには??
切れている血管から出血をできるだけ少なくするために、もっとも大事なことは「圧迫」です。
局所を圧迫することで、切れている血管に圧がかかり、出血量が減少するとともに、止血され易くなります。
とくに受傷後1時間以内が大切で、この処置を十分に行うことで出血を抑えることができ、その後の回復に非常に良い影響を及ぼします。
もちろん、PRICEは重要な処置であり、アイシングも圧迫と同時にできれば、行った方が良いですが、最優先は圧迫。
膝を屈曲させての固定が必要
出血後の筋が硬くなって伸びにくくなること(伸展障害)を予防するためには圧迫して止血を行うとともに、損傷した筋を伸ばした状態で(伸展位)保持することが重要。
大腿四頭筋(モモの前)を打撲した時の初期治療は、まず強く圧迫するとともに膝を出来るだけ屈曲位に保持。(肉離れは逆で、伸ばしてはいけません)
だんだん痛みが強くなり我慢できないくらいになってしまう場合は、膝は伸ばしてもいいので患部を圧迫してふとももを包帯で巻き圧迫を継続してください。さらに、安静にしていても耐え難い痛みがある場合には急性コンパートメント症候群の可能性があるので要注意です:下段補足参照)
軽症例では膝関節 90 度 以上の屈曲が可能であり、45〜90 度であれば中等症、45 度以下に制限される場合は重症と定義されています。
痛めた筋を伸ばすことによって、損傷した筋に悪影響が生じてしまうと考えるかもしれませんが、部分的な損傷でしたら損傷部位が収縮により離れてしまうような悪化はないという研究結果が報告されています。
また、早期に損傷した筋を軽度に動かすことが、再生してくる筋に伸展方向の情報を与えるという良い影響があるとされています。
大事なのは「血が溜まるスペースを与えない」こと。
出血が減少したら,安心してストレッチなどのリハビリを始めて大丈夫です。順調に良くなると、どんどん可動域が回復します。
(肉離れとの鑑別は必要で、明らかな打撲のあった筋挫傷なのか、自分の筋力によって起きた肉離れなのかを問診から判断する必要があります)
復帰までの期間
通常は、保存療法で軽快します。
軽症では2週以内、中等症で約3週間、重症だと3週以上、が復帰の目安とされています。
筋の打撲は、筋肉内の出血量が多くなってしまうと、復帰までに多くの時間を要します。
適切な処置をして出血量を最小限にすれば、早期復帰ができる可能性があります。
補足
筋挫傷の合併症として、「①急性コンパートメント症候群」と「②骨化性筋炎」に注意が必要です。
「①急性コンパートメント症候群」とは、受傷後 12〜24 時間くらいで、腫れにより皮下の圧が急激に高まって筋肉が壊死してしまう疾患です。
一方、「②骨化性筋炎」は受傷後3〜4週間しても症状が残存しているような ケースで見られ、損傷した筋肉の一部が骨化してしまう疾患です。
「急性コンパートメント症候群」や「骨化性筋炎」をきたした場合には外科的対応が必要となることもあるので要注意です。
参考URL
メディカル通信 第4回|メディカル|JFA|日本サッカー協会
『飯島整形外科』:ドクター飯島のスポーツ医学Q&A:骨化性筋炎 (iijima-seikei.jp)
「“ももかん”って大した怪我やないやん、打撲やろ。明日もプレーできるやろ。」なんて思っていませんか? – 福岡市城南区の整形外科 タケダスポーツクリニック (tsc-s.com)
大腿部打撲(チャーリーホース) – McDavid|サポータ-ブランドのマクダビッド オフィシャルサイト